(DEATH NOTE)ニアはデスノートを使ったのか?

久々に『DEATH NOTE』を読み返して、気になったことがある。
ニアは、デスノートを使って人を殺したのか?


※以下、漫画『DEATH NOTE』1~12巻と13巻(公式マニュアル)のネタバレを含みます




松田の推理


松田はpage.108で、ニアが魅上を殺したと疑っている。
ニアは本物のノートに魅上の名前を書き、死の前の行動を操って殺したと言うのだ。
「魅上照 ノートを偽と疑う事も 本物かどうか試す事もなく 2010年1月28日 YB倉庫に13時30分に来て その十日後発狂して死亡」とか書いたに決まってますよ(略)
二冊ともニアが燃やしたんすよ あれは魅上の事を書いた証拠の隠滅…
普通怖くて燃やせないっすよ…………
(12巻 page.108「完」)

この推理は当たっているのだろうか?
先輩の伊出さんは「おまえのは推理じゃなくて願望だ」とたしなめていたが、私にはそっちのほうが善意の嘘に思える。大人のはぐらかし、というか。松田の推理が当たってるとしか思えない。

明らかになっている事実、不審な点

夜神月がニアにキラであることを暴かれ、リュークに殺された運命のYB倉庫。
そのYB倉庫に関連する出来事で、明らかになっている事実はこうだ。


・魅上はYB倉庫に偽のノートを持参
魅上が貸金庫に預け、本物だと思って倉庫で使ったノートは、実はニア陣営によって一冊まるごとすりかえられていた。

・すりかえた本物のデスノートはニアが持っていた
ニアはルールの嘘をリュークに聞いて確かめた直後に、二冊とも燃やした。
(もう一冊は日本捜査本部が保管していて持って来ていたノート)

・月は魅上に日々ノートのチェックをさせていた
月はニアがノートに細工してくると予想していた。
魅上は顕微鏡を使ってまで、差し替えの痕跡の有無を探していた。だからこそ一度目の細工に気づいて、(高田経由で)月へ連絡することができた。

・魅上は事件の10日後に獄中で発狂し死亡
獄中での死亡ならば、デスノートのルール「ノートに名前を書かれた人間以外の死を 直接的に招くような死に方をさせることはできない」に抵触しない。






私は、松田の推理は正しいと思っている。


松田の推理は正しい と思える根拠

魅上が二度目のノートのすりかえに気づいてないのがおかしい

前述のように、魅上は今まで顕微鏡使って入念にノートをチェックしていた。「魅上は機転がきく」とも言われている。ならば隠していた本物のノートにも細工される可能性も考えそうなものだ。
ノートの切れ端でも効果があると知っていたのだから、念のために切れ端をこっそり持ち歩いたりしててもいいはずだ。操られてなければ、倉庫に来る前にノートが本物かどうか一度使ってみるとか、倉庫内の人間がノートで殺せないと分かったら隠し持っていた切れ端に書くとか、何らかの対処ができたように思える。
(でも40秒経つ前に、月が呼びかけちゃうからこの策は現実的じゃないかも……)

「ジェバンニが一晩でやってくれました」

(DEATH NOTE読者によくツッコまれている台詞だ)
一晩で偽造されたようなクォリティの偽ノートに気づかない、という不自然さが、逆に魅上が操られている証拠に見える。
というかニアがノートを使ってない、と仮定すると、YB倉庫でニアの巡らした策略はノートをすりかえるだけになってしまい、なんかしょぼい。キラを追い詰めることができたのは「ほとんどジェバンニがすごかっただけ」、という感想になるのも仕方ない。
ニアがLを超え、キラを屈服させられたのは、デスノートを使うという決断をしたからだと思う。月はそこまで予測できなかったから負けたのだ。

「キラに勝つ方法」についてのニアの発言

キラに勝つ方法として、ニアは二つの方法を挙げた。一つは「殺人ノートに名前を書かせてそこを押さえる」、もう一つは「Lキラ(月)とXキラを殺して、ノートを没収する」というやり方だ。それでキラの裁きが止まれば、状況的には月=キラだと言えるだろう。

しかしニアは、後者のやり方は却下した。
Lキラ・Xキラの他にもキラがいる可能性もあるし、そんな事後承諾的なやり方は絶対に選ばない、「私やLのやり方ではない」「Lが次の者に託した意味がない」と言った。
ですから Lキラ・Xキラを殺すとしても…
その時は目の前に100%の確たる証拠を突きつけ負けを認めさせ その惨めさを存分に味わわせてからです
その前に殺すなんてとんでもありません
(11巻 page.90「予告」)
これは「100%の確たる証拠を突きつけて負けを認めさせ、惨めさを味わわせたら 殺す」と宣言しているようにもとれる。

ノートを燃やした

怪しすぎる。
ニアが潔白なら、ノートを燃やす理由が無い。
月が死ぬ前には、ニアは「もう絶対に人の手に渡らない様に保管する」と言っていたのに、だ。(油断させるための口実で、嘘だったんだろうな)
「ここにノートがあると、また月くんみたいにノートの力に惑わされてしまう人が出現する、こんな危険なものは一刻も早く消滅させるべきです」……とでも言って、捜査員たちを納得させたのだろうか? みんなが納得してなくても、問答無用で燃やしそうだけど。

デスノートはキラによる不可思議な「殺人ノートでの大量虐殺」の、最も重要な証拠品だ。ノートが無くなってしまえば(※)事件の立証は難しくなるのでは? 状況証拠や目撃者の証言でなんとかなるのか?
※(日本捜査本部にあったノートは月がすりかえていて、本物は隠してあるようだから、人間界のどこかにはまだあるはずだけど)

……とも思ったが、しかし、本来なら裁判で裁かれるべきキラも、その協力者も、ほとんど皆死んでいる。
キラが捕まったこともキラ事件の真相も世には公表されぬままだから、証拠なんて別に必要ないのかもしれない。
死神やデスノートによる殺人は、きっと法では裁けない。だからこそ、ニアもキラを捕えたあとは自力で永久に拘束する予定だったんだろうし。

あなた(キラ)は 私が責任をもって 誰の目も声も届かない所に 死ぬまで閉じ込めます
(page.106 「殺意」)

ニアと"正義"

月(キラ)はニアとメロの二人によって追い詰められ、最後は死神リュークに名前を書かれて破滅した。つまりニアは、月の命を直接奪いはしなかった。
一見、ニアは少年誌で描かれるべき、人々に褒められるべき"正義"の振る舞いをしているように思える。そんなニアが、魅上の名前をデスノートに書くような真似をするはずがない、と感じられなくもない。
「悪い奴なら殺してもいい」という考えに基づいて行動するなら、それはキラの行為と同じになるのでは……?

しかし、キラだとバレて「僕はキラだが 新世界の神だ」「間違っているのはおまえだ もう僕が正義なんだ」と演説する月に対して、ニアはこう言い放った。
何が正義か悪かなんて 誰にもわかりません(略)
私もあなたと同じです 自分が正しいと思う事を信じ 正義とする(略)
自分を神と言い 片っ端から人を殺す事は 私の中では絶対に悪です
(12巻 page.105 「無理」)

彼は、自ら「あなたと同じ」と言ったのだ。
「絶対的な悪(=キラ)を止めるためにはやむを得ない、必要な犠牲」と判断したから、ニアは魅上を殺したのかもしれない。それが、世の人に認められるような正しい事なのかどうか?は二の次三の次だ。「ニア VS キラ」は「正義 VS 悪」の構図ではないのだ。

そういえば直前にこうも言っていた。
極端な話…
ノートを私利私欲の為に使い 何人か殺してしまう人間の方が
まだ 私は理解できますし まともだとさえ思います
(12巻 page.105 「無理」)
これは殺人を肯定するような発言だ。ニアは数人の殺人をするぐらいなら「まとも」だと、言える人間なのだ。ちょっと受け入れられない。

月が自分の勝利を確信したときの台詞も、フラグっぽい。
ニア おまえにも勝つチャンス いやここで負けない方法はあった
おまえは甘い… Lにはるかに劣る(略)
人の命…悪人でいいじゃないか 一人や二人犠牲にして確かめるべきなんだ
全くおまえにはがっかりだ… 張り合いがなさすぎる…
おまえは美しく勝とうとしすぎた
(12巻 page.102 「我慢」)

月との勝負には結局ニア(+メロ)が勝った。
ならば月のこの台詞は勘違いで、ニアは美しく勝とうとはしておらず、勝ちにいったのだ。殺人という手段を使ってでも。ワイミーズハウスでメロも、ニアは冷静に無感情にパズルを解くように、Lの業務を行なえる人間だと評価していた。
ゲームは勝たなければ パズルは解かなければ ただの敗者
(7巻 page.61 「二番」)

最終話で伊出さんが松田に「ニアが正義だとはっきり言えもしない」とつぶやいてるのも、ニアへの疑いを強くさせる。日本捜査本部のみんなもニアのしたことを把握しているのだろう。

大場つぐみ氏、小畑健氏のニアに対する印象

13巻のアンケートで、原作者・大場つぐみ氏はニアについて
「手作りの指人形の醜い造形に心の暗黒面が出ている」「ニアは話が進むにつれ嫌な面が出てきた。ノートを後でかっさらってやろうというスタンスが嫌なイメージ、ずるいイメージに繋がったのかも」、
作画の小畑健氏も「一番嫌な奴はニアかな」「一番頭が良い人物はニア。ずるいから」と答えている。
ニアが悪いことしてなければこんな風には言われないだろう。

これだけ作家に「ずるい」とか「嫌な奴」とか言われてて、フラグも立てて、殺人の証拠(ノート)も残さないよう燃やしてて……これでもしニアが潔白だったとしたら、これら一連の描写は何のための描写なんだ!? ってなるよ。無実だったらこんなに疑われて可哀想だよ。だからこそニアはクロです。



大場つぐみ氏によるヒント


13巻に「松田の推理は当たっているのか?」について大場氏のコメントがある。
ここでも正解は発表されず、判断が読者にゆだねられている。

あくまでどちらともとれる内容で、真相は決めていません。(略)
この件で私がはっきり言える事は、月は魅上に
"最後まで本当のノートを出すな"と命令していたという事だけです。
(13巻 P.198)

(メロによる高田誘拐事件という邪魔が入ったにせよ)魅上が、『神』と崇拝しているキラの言いつけを果たして破るだろうか? やはりおかしい。読者にそう思わせるために、わざわざ大場氏がここでこう言ったと推測できる。
明言を避けてはいるものの、これではほぼ「松田の推理は当たってます」と言っている……ように思える。しかし解説本でそう言い切ってしまうのは野暮だから、言わないのだ。本当は、大場氏のなかには正解があるんだと思う。


(余談)
↑大場氏がこんなふうに書いたのは、『うみねこのなく頃に』の六軒島事件の真相の詳細や主人公のその後を、竜騎士07氏が作中にはっきり描写してなかったのと似た理由だろうか。
(「愛がなければ視えない」=愛をもって作品を読み解けば理解できる、ということで、意図的にぼかされてたはずだ)
『うみねこ』はコミカライズが素晴らしくて、原作テキストだけではよく分からなかったところも見事に補完してくれていて感動した。
未読のかたはぜひ読んでください。



おわりに

以上、願望を込めていろんな推測を並べてみました。

キラはやっぱり、最後は誰かに滅ぼされるしか道はなかったよなぁ、と思いつつも、月の言ってることには一部納得してて、強さに惹かれるし、もしデスノ世界に生きてたらキラ信奉者にされてたかもしれない、とも思う。
松田と一緒で、私も月が好きなんだ。悪巧みも悪い顔も好き。
月が撃たれ、錯乱してみじめに殺されるラストはいつも読み進めるのが辛いけど、月に会いたくてまた私はこの『DEATH NOTE』の物語を読んでしまうのだ。


2 件のコメント :

  1. ニアがノートを使ったのかどうか知りたかったので参考になりました。ありがとうございます。

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  2. 松田の推理が納得いかない点:
    1.「死の直前の行動をある程度操れる」というのはあくまでも死にまつわる機能のはずで死因が獄中での発狂死なのに、その10日も前の「ノートを疑うかどうか」という死に全く関係無さすぎる経緯まで操れるというのは合理性に欠ける。それは死神の能力の範疇を超えていないだろうか。
    2. そもそもニアが証拠を突きつけてキラに負けを認めさせることにこだわるのなら、やはり魅上をノートで操ってボロを出させようとした時点でその信念が破綻している。自身の信念を破綻させてまで勝ちに行くのならそれこそノートを使ってさっさとキラを即殺すれば良かったことになる。あるいは魅上を操って「キラの正体」を自白させて殺してから、月を「魅上が吐いた。ノートで真実を自白させたので嘘ではない。」として捕まえればよい。ノートなどというチートツールを使っておきながら月に「完全勝利」した展開を装って勝ち誇る、というのはあまりにも惨めすぎやしないか。

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