『あんスタ』と『少女革命ウテナ』の共通点を探す

最近、『少女革命ウテナ』のアニメを久しぶりに見返した。
あんスタは今のこの時代に生まれただけあって、これまでのマンガ・アニメ作品の影響をいろいろ受けてる感じだけど、『ウテナ』の血も引き継いでいると思う。

ハピエレのスタッフさんが意識して取り入れたのか……オマージュなのか、同じ作品を源流に持つのか、たまたまの偶然なのか……? 真相は分からないけど、私が「似てるな~!」「同じじゃん!」と思ったところを挙げてくよ。

※『ウテナ』のネタバレを含みます

美しい学校が舞台

『あんスタ』の夢ノ咲学院も『ウテナ』の鳳学園も、海に近い、箱庭のような私立の学校である。物語は少年少女たちが主役であり、大人は数人登場するだけだ。
外部の人間との関わりもあまりない。夢ノ咲の生徒はたまに他校や他の施設に行くけど、(他校の子は身内みたいな感覚だ)モブみたいな人物はほぼ物語に干渉してこない。

生徒はみんな見目麗しい子ばかりでスタイリッシュ。モブにもブサイクだったり不潔そうな生徒、肥満児といった容姿の子は一人も見当たらない。
少女漫画の世界のような、美しい舞台だ。

夢ノ咲学院の全景

夢ノ咲学院のガーデンテラスは、ガラス張りの「温室風の建物」。
これは『ウテナ』で姫宮アンシーが薔薇の世話をしている温室とよく似ている。

ガーデンテラス

この温室は鳥籠にも見える。てっぺんに何かひっかけるところ(?)があるデザインで、普通の温室らしくない。学校が、鳥籠の中のような閉鎖的な世界であることを示しているのだろうか?
エレメント』で旧fineが五奇人・渉と対決したステージも鳥籠っぽい。ただしこっちは半分開いている。

1年前のfineのステージ

年を取らないことを指摘された鳳暁生は、「学園という庭にいる限り、人は大人にならないのさ……」と答える。
あんスタの子たちも『あんスタ』という箱庭のなかにいて、年を取らない。


名前の共通点


姫宮……姫宮桃李、姫宮アンシー
……羽風薫、薫幹
・「てんしょう」いん、「てんじょう」……天祥院英智、天上ウテナ
・「きりゅう」……鬼龍紅郎、桐生冬芽
・「るか」……ルカ(レオの妹)、土谷瑠果

先日、英智の名前についての記事(「天祥院英智の家と名前について」)で天祥院について書いたけど、「姫宮」という名前も皇族の女性・プリンセスを意味する言葉だったんだね。「姫」だもんな。


花のたとえと植物

あんスタではよく、アイドルや夢を「花」にたとえている。学校が「夢ノ咲」とつけられているくらい、花は重要な要素だ。
「花のたとえ」(台詞bot台詞まとめ)

薔薇も、渉がよくまき散らしてたり、人にあげたりしていて印象的な花だ。

メインストーリーの【DDD】準決勝のシーンでも、渉が英智の手の中に白い薔薇を手品で出現させる。(ノベライズ四巻P.263)

一方『ウテナ』では薔薇が非常に重要な意味を持っていて、いろんなところに薔薇のモチーフが登場する。主人公ウテナは幼い頃にもらった「薔薇の刻印」の指輪を大事に身につけているし、主人公のそばにいる姫宮アンシーは「薔薇の花嫁」で、薔薇の世話をしている。花嫁を奪い合う決闘のときには両者の胸に薔薇を差し、この花が散らされると負けになる。
アンシーがウテナの胸に飾ってくれるのは、渉が英智に差し出したのと同じ白い薔薇だ。

また、デュエリストとして主人公ウテナと決闘するキャラの名前に植物由来の漢字が使われているという共通点がある。(芽、莢、樹、実、幹、梢、草、葉)
ウテナという名前も、花の「がく」という意味だ。アンシーは植物そのものではなく、ギリシャ語で「花が開く」という状態を表すらしい。


生徒会について

『ウテナ』では特別な白い制服を着た生徒会メンバーが、主人公に立ちはだかる。fineみがある。

・生徒会長……一見にこやかだが実は策略家。利己主義者で他人を利用する。「本当に友達がいると思ってるやつはバカだよ」とまでのたまう。
・副会長……緑系の髪色。堅物で生徒会長の幼なじみ。名前に「寺」が入っている。

副会長の西園寺は不器用で乱暴者でもあり、陰で「生徒会のピエロ」「道化」とも揶揄されている。

生徒会のシーンでは、お決まりのフレーズがとなえられる。
卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく。我らは雛だ、卵は世界だ。
世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでいく。
世界の殻を破壊せよ、世界を革命するために!
これ、ずっとウテナのオリジナルだと思ってたんだけど、実はドイツの詩人&小説家、ヘルマン・ヘッセの『デミアン』からの引用みたいだ。
鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。
生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという
(デミアン ―エーミール・シンクレールの青春の物語― P.121 ヘッセ著/高橋健二訳 新潮文庫)

ここに突然出てくる『アプラクサス』って何? 何の話??
そういえば『ウテナ』の生徒会のシーンで流れるBGM、『伝説・神の名はアプラクサス』というタイトルだったなぁ。英智くんもアニメ初登場シーンではああいう荘厳なBGMを背負って出てきてほしいな。Trickstarをビビらせよう!

『アプラクラス』とはグノーシス主義(Wikipedia)の用語らしい。なんで突然グノーシス主義の話?????(知らない言葉が次々出てきて混乱している)
いろいろ読んだところ、どうもヘッセは心理学者&精神医学者でもあるユングと交流があって、ユングの思想の影響を受けているらしいよ。

『ユング自伝』に収められている「死者への七つの語らい」という詩?に、その説明が載っていた。これがまた抽象的で、ほんと『ウテナ』の決闘歌みたいに不思議で……私にはよく分からなかったんだけど、とりあえずアプラクサスに関する記述を一部抜粋します。ほんとは前後も中間も、もっといろいろ書かれてて長い。

※ちなみにこの作品(「死者への七つの語らい」)はユングが自費出版した小冊子で、元々は友人にだけ贈ったもの。同人誌ですね。ユングは後悔していて、自伝に載せて公表することも躊躇していたらしい。この詩には彼の思想はにじみ出ているけど、これがまるっきり創作なのか、「グノーシス主義におけるアプラクサスの解釈の常識」、と言えるのかどうかは私には分からない。未知の世界すぎて……

これはお前たちの知らない神である。人類がそれを忘れ去っていたからである。われわれはそれを、その名に従って「アプラクサス」と名づけよう。それは神や悪魔よりもなお不確定なものである。
アプラクサスは知ることの難しい神である。
アプラクサスは太陽であると同時に、虚空の永遠の吸い込み口であり、非難するもの、切断するもの、悪魔である。
アプラクサスの力は二面的である。しかし、お前たちの目には、その互いに対向する力が相殺されてしまうので、それらを見ることができない。
アプラクサスは、しかし、尊敬すべくまた呪わしい言葉を語り、それは同時に生であり死である。
アプラクサスは同一の言葉、同一の行為の中に、真と偽、善と悪、光と闇を産み出す、従って、アプラクサスは恐るべきである。
アプラクサスは、一瞬のうちにその餌食を倒す獅子の如く素晴らしい。それは春の日の如く美しい。
アプラクサスは世界である。その去来そのものである。太陽の神のすべての恵みに、悪魔はその呪いをなげかける。
その顔(かんばせ)の前に、人は立ちすくむ。
それは人間の愛である。
それは人間の言葉である。
それは人間の外貌であり、陰である。
それは幻の現実である。
(『ユング自伝2』付録Ⅴ 死者への七つの語らい A.ヤッフェ編 河合隼雄 藤繩昭 出井淑子 共訳/みすず書房)

この説明って…………めっっっちゃ、ことごとく、英智くんのことみたいじゃないですか!?!? (英智くんっぽいところを選んで抜粋したせいもある)
英智は輝かしい太陽にも、すべてを飲み込むブラックホールにもたとえられたことがあるし、天使とも怪物とも言われた。様々な欲を持っているから、「人間」代表みたいに言われたこともあったね。(『ミルキーウェイ』エピローグ)
『アプラクサス』とはそういう矛盾する要素を持っていて両立させているもの…………メインストーリーで渉がそういうこと言ってた!


まぁこの渉の台詞は、直後に英智が「君はメフィストフェレスのようだね」って返してるから、「英智はファウストみたいですね」って意味だったのかも。

ゲーテのファウストも「わが胸に二つの魂が宿っている」と言い、神と悪魔、光と闇の間にいて両方の要素を備えており、底無しの欲望で「天上の最も清らかな星々」や至上の喜びを求めていて、常に向上する努力をする者であり、最期には愛の力によって魂が救済される……というキャラらしい。←聞きかじった情報。原作長そうだから読んでない……間違ってたらごめん。(『ファウスト』ーWikipedia
(余談:ユングは若いころ、自分の祖父はゲーテの隠し子である、という噂を耳にしたらしい)

ノエル』でも、桃李が今は天使と悪魔が同じようなもんなんだ、って言ってたね。

『ウテナ』の話に戻ると、「天地創造すなわち光」の歌詞がまさにアプラクサス的だと思う。

ブラコン・シスコン・友情以上の感情

『ウテナ』は幹と梢、冬芽と七実、暁生とアンシーのブラコン&シスコンぶりがものすごい。一線超えたりしてる。鳳学園は見た目は美しいけれど中身はドロドロだ。だがあんスタも負けてない!(張り合う) 狭い学院の中に様々な人間関係が渦巻いている。
主人公のウテナや、あんスタの英智からはふつうの「家族愛」や「友情」の範疇に収まりきらないような強烈な感情も感じる。彼らはあの細っこい身体に、それこそ『世界を革命する』ほどの力を秘めている。


その他の細かい共通点

だいぶこじつけになってきた。でも更にどんどんこじつけるぞ~~!


趣味:ティーカップ収集
英智とウテナの趣味はティーカップを集めること。

「棺」
棺と言えば朔間兄弟。過去、凛月や零は生ける屍のようだと言われたことがある。

幼いウテナは、突然訪れた両親の死によって生きる気力をすっかり失ってしまった。お葬式で悲しみに暮れた彼女は、自ら空の棺桶に閉じこもった。
(※2018/05/29追記:これは白雪姫=「待っていれば白馬の王子様に助けてもらえる」受け身なお姫様のイメージなのかも?)
また、最終回では棺のなかに密かに閉じこめられていたアンシーが、ウテナによって救い出される。そして彼女は、『革命された世界』に気づかないままの暁生にこう言い放つ。
「あなたには何が起こったのかも分からないんですね。もういいんです。
あなたはこの居心地のいい柩のなかで、いつまでも王子様ごっこしていてください。
でも。私は行かなきゃ。あの人は消えてなんかいない。あなたの世界からいなくなっただけ。さよなら」


人間ではない存在?
アンシーとその兄・暁生は人間ではなさそうだ。異世界から来た存在のように描かれている。奇人あたりももしかして……?


CV.緑川光
緑川さんが声をあてている「御影草時」という美貌の、老けない教授がいる。
彼は実は『永遠』を手に入れるために100人の少年を犠牲にした、内なる狂気を秘めた人である。

緑川さんの声で「永久機関」とか「神さま」とかが出てくるとついつい、おっ、こりゃあんスタ度(?)が高い台詞だな~~!と思ってしまう。致し方ない。
「永遠を手に入れようなんて、永久機関のからくりを作り出そうとするようなものだ。人はもっと謙虚に、神さまの与えてくれるものに感謝してればいいんです」
彼はウテナに自分の初恋の人の面影を重ねている。普段は冷静な彼が、ウテナに向かって叫ぶシーンもある。もう、このシーンでは脳内の英智くんが一緒になって叫んでたよ。
「君を最初に見た時から僕には分かっていたよ! 君も昔、大切な人に出逢ったんだろう!? それで、その人に自分の人生を変えられてしまったんだろうッ!」
自分の人生を変えられるほどの人とは、英智にとっては日々樹渉だっただろうか。きっとそう。


星に名前をつける
星に名前をつける話、あんスタでは肯定的な感じで出てくる。

逆に『ウテナ』では、暁生によって否定的に使われている。
「不思議だよな。新しい星を発見すると、発見した自分のものになったような気がする。でも星は星だ。誰のものでもない」
ここでは新しい星とはたぶん、デート相手のウテナを意味している。ウテナを自分の所有物にできないってことを悟っている様子。


病気で休学していた生徒が復学する
英智、土谷瑠果のこと。


靴の色
ウテナの履いてる白と黒のバイカラーの靴は、渉の靴とちょっと印象が似てる。




『少女革命ウテナ』とジェンダー


『少女革命ウテナ』とは、アンシー(=抑圧されてきた女性の象徴)が、ウテナ(=既存の古い『女性』の型に縛られない、自由で主体性のある人間の象徴)によって『革命』され、古い世界から解放されて大人になっていく話である。たぶん。
昔は暗喩とか全然分からなくて、ただひたすら絵と不思議な音楽に魅了されてたんだけど、今回アニメを見返して、考察ブログとかもいろいろ回って、私の中では今そういう結論に達した。


『ウテナ』について考察している論文もあったよ。
少女漫画における男装 : ジェンダーの視点から (九州大学付属図書館)

やっぱり、『ウテナ』ってジェンダーの話だよね。女の子の身体をしたままで、堂々と男装してる女の子が主人公だもんな。昔はこういう考察が手軽に読めなかったから、今読めるようになって嬉しい! そして内容が少しは理解できている。大人になった気がする。

放映当時の1997年から、だいぶジェンダーに対する社会の空気が変わった感じがする。ツイッター見てるとそう思う。
女性の社会進出、男女格差の縮小、晩婚化、女性の娯楽へかけられる費用の増加、そしてあんスタ誕生へ……! 繋がった!!!(?)


『ウテナ』アニメ、Amazonプライムにあるのでぜひ!
少女革命ウテナ (Amazonビデオ





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