『ユリイカ』2017年2月号 感想

あんスタ記事が掲載されている『ユリイカ』を読みました。引用しつつ気になったところの感想を書きます。
※これまでのストーリーのネタバレもあるよ

[青土社:ユリイカ2017年2月号 特集=ソーシャルゲームの現在]


あんスタのストーリーやキャラの特色・ユーザーのこと・あんスタにおける「アイドル」とは何かとか、英智についても色々書かれていた。

あんスタの特色について

・「少年漫画」的な展開と、その行間を埋めるような「少女漫画」的な要素のあるストーリー
・あんスタの売りは、アイドルたちの人となり、日常生活や人間関係が詳しく描かれていること
友情、努力、勝利でたとえられるかつての少年ジャンプのような「少年漫画」的な展開と、キャラたちの内面や関係性をくわしく描く「少女漫画」的要素のあるストーリー。これは元々制作陣が狙っていたとおりの方向性だ。いわゆる「乙女ゲーム」にしなかったことで、乙女ゲーム層以外にもいろんな嗜好のプレイヤーに受け入れられる作品になっている。

すごく同意。
恋愛要素がなくていいからただ男子高校生がワイワイしてるのを見たい層もいるし、言わずと知れたBL愛好者もいるし、男性プレイヤーもけっこう多いと聞く。みんな可愛いしカッコイイもんな。あんスタ声優さんやあんステ俳優さんもプレイしてたりする。
また、夢ノ咲を「ホモソーシャルな空間における愛と執念が渦巻く場」と表現しているのには深く頷いた。「執念」や「執着」と書かれてしまうほど、彼らの感情は時にどろどろと生々しい。


・星座を描き出すステージ
この論考のタイトルにもなっている、あんスタオープニング曲「ONLY YOUR STARS!」の歌詞の一部「星座を描き出すステージ」。
あんスタのキャラには様々な関係性がある。ユニット、クラス、部活、臨時ユニット、兄弟、幼なじみ、ライバル、etc.……。そして、「星々の間に自由に線を引いて星座を夢想するように、アイドル同士にあらたな関係を読み込むことが可能」だと言う。限られたキャラの中で違う組み合わせを作ることで新しいアンサンブルを奏でられる『あんスタ』。
この記述を読んでハッとしたよ。星座のことを、そういう捉え方もできるんだな~! は~~~なるほど!! アンサンブルになるのさ~~!(歌詞)
このフレーズ、私は「アイドル(=スター)たちが物語を、星座を描いていく」、それぐらいの意味でとらえていた。

・キャラクターづくり
この方のあんスタ各キャラの第一印象は「最悪」だったらしい。王子様然とした嵐ちゃんがオネエ口調だったりするギャップが良くなかったようだ。私は「みんなカワイイ~~!」って思ってたよ!

Trickstar

「いろんなキャラが既存の人気キャラから「引用」されているのがよく指摘されてる」、という記述も。スバルがハイキューの日向、北斗がFree!の七瀬、真緒が同じく松岡凛、ゆうくんがヘタリアのアメリカ、だというやつ。たしかに、めっちゃ似てるね。ドラゴンボールの悟空ぐらい個性的な髪型だったら言い逃れできないけど、これぐらいなら偶然か、な…? 英智はツバサのファイ、と言ってる人も見かけたことがある。似てるね。  ファイ-ピクシブ百科事典


・プレイヤーがキャラの存在をより実感できるLive2D
まばたきをしたり、表情を変えたり、タップに反応して腕を動かしたりするこの動き、すごいよね。楽しい。ほんと、キャラが「いる」って感じする。
あんスタのLive2Dはかなり進化をとげているらしい。Live2Dの会社で開催された動画のコンテストにもあんスタ開発チームの人が行って審査員をしていた。そこまで…!?
(参考:【alive 2016】2Dイラストがここまで動くの…!? Live2Dを用いたコンテストの表彰式を取材-SocialGameInfo

待機中も「呼吸」のモーションが設定されてるみたいで、よく見ると肩が上下している。生きてる。
嫌がられるのもちょっと楽しい

英智について

・英智は滅びゆく三次元アイドルの暗喩である
英智は病弱で余命宣告されてて、(現実を生きる我々と同様)人生の時間が限られている存在であり、「永遠を生きる二次元アイドル」と対比されている、という説。たしかにストーリー内でもたびたび英智が「人間」側で奇人が「魔物・怪物」側だと描写されてるね。これにはとても納得。
「人間」らしく、才能に嫉妬し執着しあがく姿も、英智の魅力のひとつだよ。

・英智と「転校生」ちゃんの持つアイドル像の違い
英智が「アイドル」を奇人たちのような「英雄」だと思っていたのに対し、転校生ちゃんは「アイドル」という概念は「偶像」であり、ファンのまなざしがアイドルをアイドルたらしめ、青春している人は誰でも「アイドル」になれると思っている、と書かれている。転校生ちゃんがアイドルという概念を変えた、と。
たしかにノベライズの地の文にそういう感じの記述はあった。
アイドルとは偶像という意味だ。それは信仰されなければ、(略)単なる木くずか石くれでしかない。けれど愛されることで、どんな奇跡だって起こせるのだろう。(ノベライズ4巻『歌声よ天まで届け』P.362)
うーん、でもな~私の見解はちょっと違うな。
この学院にいるのはみんな、ふつうでは考えられないことを行っている超人たちだ――少年漫画の登場人物みたいな、選ばれた、あるいはその立場を勝ち取った英雄たちなのだ。(ノベライズ1巻『青春の狂想曲』P.233)
学院のみんながそもそも超人なんだ。
英智の言う「英雄」が、転校生ちゃんにとっては「夢ノ咲学院のみんな」になってて、範囲はかなり広くなっているけど、両者ともに「ふつうの人間よりずっと優れた輝きを持って人を惹きつける人」のことをアイドルと呼んでいるんじゃないかな。誰でもってわけじゃないと思うよ。


・自らを神とした永久機関
あと、新規プレイヤーさんが読んだら誤解するんじゃないかと個人的に引っかかってるのが、天祥院英智についてのこちら↓の記述。
アイドルという「夢」が次々と「咲く」ようアイドルの温床を作り、それを収穫して採り込み続けられる、自らを神とした永久機関に学院を作り変えようとしたのだ。(P.121)
うーん…
言ってることは間違ってない、こう書かれても仕方ない。
メインストーリーでTrickstarに解散命令を出したり、「アイドル業界の奴隷になってほしい」と言ったり、DDDでラスボスとして立ちふさがったり、『Daydream』でこういうこと↓言ってるからなぁ。
頂点を目指し、ここまで駆け抜けてきた。(略)蹴落としてきたアイドルたちと、その夢の残骸を――踏みつけにして、今日も僕は征(ゆ)こう。(略)孤独な頂へ、すべてを改革できる神さまみたいな位置へ――僕の終着点(フィーネ)へ。(ノベライズ2巻『革命児の凱歌』Daydream P.277)
でもこの論考の書き方じゃまるで、英智の真の目的が「神となり、学院の時を永遠に止めること」みたいじゃないですか……? そんな、独裁者の「悪役」キャラで自分のことしか考えてないみたいな…。私とは解釈違いです><(でも傲岸不遜な英智もアリです◎)

メインストーリー終盤までの英智の目的は「自分がアイドルになること」「(暴君となってでも)堕落した夢ノ咲を改革すること」だったはず? 『皇帝』らしく君臨し、ラスボスらしく振る舞い、手段を選ばず狡猾で、恨まれることを承知で人を挑発したりするから誤解されるけど、本質は無邪気で子供っぽいんだよ。(誕生日のやつとか)
ほら、「あなたは決して『悪』ではない」って渉も言ってたし。私は英智はダークヒーローだと思ってる派。(贔屓目が入っていることは自覚している)

(2017/12/05追記:日日日先生が英智を「ダークヒーローって呼びたい」とツイートしてた)


この著者の方、どこまでストーリーを読んでるんだろう? すごく読んでる感じはする。『返礼祭』は「晃牙と零の壮大な痴話喧嘩のようなもの」って書いてあるから読んでらっしゃるね。ノベライズからも、公式ビジュアルファンブックやあんスタマガジンのインタビューからもいろいろ引用がある。
けど、『エレメント』は読んでないのかな…? 五奇人や渉には触れられてるけど、英智の覇道を補佐してきた敬人や、つむぎのことについて触れられてないのが気になった。ユニットソングも聴いてくれてないのかな。聴いてほしい。(偉そうな要求)

いや~、でもストーリー全部把握するの大変だよね! バリバリ仕事しながら毎月二回のイベントを追いかけるの大変だし、私も過去ストまだちゃんと読めてないので人のこと言えない。ごめんなさい。とある英智推しPの妄言なので聞き流してください。

あんステのこと

・あんスタはライブパフォーマンスがないことが欠点
たしかに、無い。
「プロデュース」でミニキャラがちょっと踊るし、「ドリフェス」というライブ対決みたいなのは一応あるけど。
それを補うように、あんステでは俳優さんたちが実際にライブを演じてくれる。「あんスタにとってのあんステは、単なる舞台化以上の意味がある」、と書かれていて納得。歌って踊るステージがハマるのは、アイドルものの大きな強みだね。ニコニコ動画とかでMMDが曲に合わせて踊るのも自然だ。

とうらぶの動画見るの好きなんだけど、刀がなんで踊るのか冷静に考えると違和感があるし、刀ミュでは刀剣男士が突然ライブしてちょっと困惑したよ。でも見るのはめっちゃ楽しい。

・「オン・ステージ」の二重の意味
あんステのタイトルについている、「on stage」は「あんスタの舞台版」であり、「ステージに立っているアイドル」のふたつの意味を持つ、と解説されている。
あんステは実際観劇に行かれてたようで、舞台本番で英智役の前山さんが渉役の安井くんを見て吹き出してしまったハプニングについても言及されている。

ステで得られる「キャラが現実にいる感」、分かる~~!
観劇した転校生さんが次々と「○○(キャラ)が実在してた……」「生きてた」って感想つぶやいてたもんな。私もツイッターのキャストさんの写真とかメディアのレポ見て「この子たち何次元の存在なの?」って思ってた。
あとステ、やっぱり最初のときより第二弾のときのほうがウィッグや衣装のクォリティが上がってて、感動した。第三弾も楽しみ。

まとめ

文句もいっぱい書いてしまったけど、こうやって公式本以外の所であんスタについて語られてるの、うれしいな~! 読み応えたっぷりで、終始ニヤニヤしながら読みました。たのしー!(『けものフレンズ』7話まで見ました)
ユーザーにダイヤを砕かせることを「賽の河原の石詰みよりもアイロニカル」と書いてるのも笑った。推しのイベントを走るのは苦行であり一種の修練でもあるよ。皮肉だね。

こんなふうにアイドルという存在についてや、あんスタについていろいろ書かれていてめっちゃ面白かったので、ぜひ読んでみてください~!

上田さんとは

ところでこれを書いた上田さんとは、一体どんな人なんだろう。初めてお名前聞きました。
ツイッターを見たところ、アメリカ文学やアニメ批評が専門の方らしい。今は上智大で非常勤講師をしたり、『ウテナ』や『輪るピングドラム』の幾原監督と一緒にカルチャーセンターで講演?をしたりされているそうだ。

「2.5次元通信」というweb連載もなさってる。刀ステ・刀ミュの回もあったよ。あのステージを「まぼろし」と形容しているの詩的で素敵ですね!
第1回・神に捧げられるまぼろし|2・5次元通信|webちくま


ほかのページについて

この方以外のほかのページもパラパラ読んだ。
すごかった。これが文章でお金を稼いでいる人達の文章か……! こんなふうに豊富な語彙と多様な視点でつむがれる文章を読むと、すごく頭が良くなった気がしたけどまぼろしだった。ご覧の通りです。

全体的に『ポケモンGo』についての論評が多かった印象。
・街でポケモンを探すプレイヤーが「ゾンビ」のようだった
・「パズドラをプレイしていたあの時間はいったい何だったのか?」
・ソシャゲにのめり込むのは愚行なのか?
・「ソーシャルゲーム」とはいったい何なのか?(言葉の定義が曖昧だという話)
ほかにも、ゲームに没頭してきた人類の歴史とかまで思考を巡らせていた。現実とは、ゲームとは、仮想現実とは…? 
色々書かれていて、いわゆるソシャゲをプレイしてるオタクとしてはどれも興味深かった。だがあまり理解できなかった。(ダメだ)


蛇足:『うみねこのなく頃に』の話
『ひぐらしのなく頃に』についても二名ほど語っているのを見つけた。『ひぐらし』が(選択肢があるとはいえ)ただ小説に音と絵をつけただけのノベルゲームにとどまらず、ネットの掲示板やHPといったコミュニティで活発に読者が議論していたことから、「ゲームの外側にゲーム的空間ができてしまう」ものだったと書かれている。だからあれも゛ソーシャル”ゲームだったと。

ゲームの外側にゲーム的空間…というのを発展させたのが、のちの『うみねこのなく頃に』だと思ってる。(『うみねこ』では物語の中に、「謎を解き明かすための様々な解説を試みる怪物」=読者を象徴するような存在 が登場する)
『うみねこ』、リアルタイムで追いかけてて超のめり込んでたんだけど、お話が難しくていまだによく理解できてない。メタ視点のメタ視点のメタ視点…とか物語の中の物語も出てきて超複雑な構造じゃないですか? 真相が明かされてない謎もあるよね? 私も誰かと議論したかったな。周りに全然プレイしてた人がいなくて寂しい。そして怖いのが苦手なので繰り返しプレイできずにいる。


ここまで読んでくださったかたへ

これ、今日の時点の感想なので、また今後違う見解になるかもしれない。
読んでて「その根拠はどこ?」って疑問とか、「ここの解釈おかしいんじゃない?」「英智は○○だろ!」等ありましたらツッコミありましたらどんどん言ってくださいね! うみねこ仲間のコメントもお待ちしてます。



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