書き下ろし短編小説『Crosstalk』感想

※ネタバレ・批判的な意見あり

Crosstalkは、あんスタ公式ノベライズ4巻、『歌声よ天まで届け』巻末に掲載されている13ページの短編。転校生の友人の「わたし」、という女の子の視点で綴られている。


時は4月。場所は夢ノ咲学院。「わたし」はプロデューサーの転校生が奮闘している姿や講堂でのTrickstarのライブを目撃している。「何度もアンコールされて…」とあるから、まさにこの本の本編の直後の場面かな。


Valkyrieふたりの描写


いちばん見たかったValkyrieの出番は、13ページのうち約5ページぐらいしかない。もっと見たかった……。
みか君は「ごはんちゃんと食べてない感じ」「鴉の濡れ羽色の髪」「綺麗な男の子」と書かれている。みか君に関しての情報は少なめ。
宗君はもう少しいろいろ書かれていて、「(声が)パイプオルガンみたいな重低音」とか、繊細そうで抱きしめてあげたいとか言われている。
宝塚の男役のような酷く色っぽい切れ長の双眸。短く刈りまれた、上等な羽毛のような髪。
(P.373)

この“宝塚の男役のような”っていうのはハピエレさんが作った設定にそう書かれているのかな。ハピエレさん京都にあるから、近くにある宝塚はなじみ深いよね。きっと。

宗くんは最初失神してるみか君のそばにいる「わたし」をにらみつけていて、冷たい態度。でも初対面の女の子相手にけっこういっぱい喋ってくれてる。語るの好きなのかな。(そりゃ宗くんが説明してくれないと、状況が全然分からないから読者も困るが)
みか君を人形扱いしているけど、ツンツンした態度ながらも彼を大事に思ってるのは伝わってくる。「わたし」にも「その子のことが大事なんだね~♪」と言われてる。そして意外と腕力が強い。失神したみか君を小脇に抱えて連れて行くところ(しかも片手で)、カッコイイね!
目を覚ましたみか君の、左右色の違う瞳を見つめる「わたし」に対して、「あまり見ないでやってくれ。影片が嫌がるし、怖がる」とこっそり告げるところも優しくてすてき。


「わたし」って誰?


突然出てきた「わたし」
どうも夢ノ咲学院とは別の学校、転校生が元々いた学校の子らしい。転校生ちゃんのこと、自分の学校のこと、自分の友達のこと、つらくて重い過去のことをいろいろ語っている。
さらに転校生ちゃんですらカッコつきの台詞(「」)を喋らないのに、この子は特徴的な口調で台詞つき。なんだこの子。単なるモブ生徒じゃないな…?

と思ってたら、彼女はどうやら『あんさんぶるガールズ』のほうのキャラらしい。
タイトルになっている「crosstalk」という英単語の意味が「(電話や無線などの)混線、混信」だから、あんスタ世界とあんガル世界が混信しているってことなんだろうな。

私はあんガル全然知らないので、この話を読んでも知らない人が突然語り始めた内容がなかなか飲みこめなくてしんどかった。読み進めても全然感情移入できなかった。ラストで泣きながら謝る転校生ちゃんを「わたし」がなぐさめ、手をふってお別れをするのを、「なんだったんだこれは…?」って気持ちでポカーンと眺めてた。
日日日先生の書くあんスタの世界は大好きなんだけど、かといって唐突にぶっこまれたあんガルキャラへの興味はわかない…。このやり方、マズかったと思う。

別の作品でたとえると、
私は『レイトン教授』も『逆転裁判』も両方好きでこのシリーズ何作もプレイしてるんだけど、コラボ作の『レイトン教授VS逆転裁判』は両方の良さを殺し合ってると思った。
メーカーの当初の目的は「レイトンファンと逆裁ファン、どちらの人も楽しめる。あわよくばもう一方の作品も好きになってほしい」だと思うけど、実際は「レイトンファンかつ逆裁ファンの人だけが楽しめる、人を選ぶ作品」になってたと感じた。
今回の書き下ろしもそれに通ずるものがある。あんスタファンかつあんガルファンだけが分かる、楽しめる。そんな感じ。そういう人、いったい何人いるんだろう。


転校生の描写


Valkyrieが出てこない約8ページは、「わたし」の転校生ちゃんへの想いや、ふたりの学生生活、転校生ちゃんの性格が、けっこうなボリュームで描かれている。
「(転校生ちゃんが)罵られたりぶたれたりするのを覚悟で会いにきてくれた」ともある。転校生ちゃん、前の学校で「わたし」やほかの生徒に何したの……? アイドルたちだけじゃなく転校生も暗い過去を抱えてるのかな。
転校生はプレイヤーの分身のはずだが、これは「日日日先生の転校生ちゃん像」ということだろうか?
1巻のあとがきに「転校生ちゃん像はプレイヤーによって十人十色」「基本的に転校生ちゃんは“透明な存在”です」と書かれていたから、まさか公式ノベライズ内でこんなに設定がいろいろ出てくるとは思わなくて面食らった。

透明じゃない転校生ちゃん

日日日先生のあとがき


日日日先生はあとがきで、書き下ろしについてこう述べている。
「小説で拾いきれていない要素がいくつかあり」
「補足というか蛇足」
「『私』への労いの意味もこめて」

小説で拾いきれてない要素
これはきっとValkyrieのことだろう。小説本編はメインストーリーなので、アプリに後から追加されたレオやValkyrieは登場していない。レオは3巻の書き下ろし『Lionheart』でチラッと出てきた。瀬名とレオの、互いへの思いが垣間見れてとても良かった。
この本が出る前はValkyrieもきっとそういう路線で来ると思ったのにな……。みか君の視点で宗君のこととか書いて欲しかったな。逆でもいい。書けない事情があったのかな?


補足と言うか蛇足

蛇足とは、よけいなもの・無駄なもののことだ。
商業誌で「蛇足」と呼んじゃうようなものを載せるってどういうことなんだ…。こんなコラボ(?)ストーリーを書くのは日日日先生の本意じゃないってこと?? ハピエレさんの指示で仕方なくこうしたのか? そんな想像でもしないとしんどい。

『私』への労い
このストーリーには『私』こと転校生ちゃんをねぎらう意味があるらしい。ねぎらってるところって、前の学校の友人「わたし」がライブ感動した! ありがとう、またね!と言ってくれてるシーンだろうか。突然出てきた我々大多数のあんスタプレイヤーの知らないキャラに、よしよししてもらったところでさ~……ぶっちゃけ、全然うれしくない


物語の中ではたしかに「わたし」ちゃんにねぎらわれてるけど、これじゃ読者置いてけぼりだよ。昔何があったのかよく分からないけど、「友達だと名乗る資格はないのかも」とか「わたしたちを裏切ってひとりだけ幸せになって…と思わなかったとは言えない」とか言われてるから、なんかわだかまりがあったんだろうな、とは想像できるけど。う~~ん……



日日日先生がValkyrieのふたりを描いてくれた点は良かったんだけど、最後はモヤモヤした思いが残ってしまった。この書き下ろしストーリーはあんまり人にはオススメできない。
本編は個人的に最高だっただけに、尚更残念です。





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